12.あの世の日常生活

あなたは死んで自分の死を悟った。そしてあの世でも依然として生きているということを自覚し、新しい住まいに落ち着いた。そこでは次にどのような生活が待っているのだろうか?


交霊会におけるウッズとベッティー・グリーンの徹底した質問攻めのお蔭で、この世からあの世への移行は、アルファベットのAからZへのような、きわめて自然な移行体験であることが明らかにされている。

あの世の霊は、自分の死の体験をまるで昨日の出来事であるかのように語る。霊たちは、自分たちの死後の体験のすべてを一つのまとまった記憶として覚えている。

しかしそれを地上に伝えようとする段になると、彼らはその記憶を失ったり、語るためのエネルギーを失ってしまうようである。そうでないなら死後の世界の体験を地上人が理解できる言葉で表現することはあまりにも難しく、とうてい自分にはできないと思うようである。


その日、ウッズは三人の友人とともにベッティー・グリーンを連れて、クロイドンからレスリー・フリントの交霊会に向かった。それは彼女にとって初めての交霊会への参加であった。

交霊会では、かつてロンドンの花売り娘だった「ローズ」と名乗る少女が現れた。彼らはローズに、あの世の様子や生活について、思いついたことを片っ端から次々と質問した。

それに対してローズが答えるのであるが、その答えは地上時代の有名人・知性人だった霊からの通信では知ることのできないものであった。それは実に現実的な答えであり、地上人の誰もが知りたいと思うものばかりであった。


紹介が終わってウッズが尋ねた。

「そちらはどのような世界ですか?」

「あなたは私に、こちらの世界のことを物質的な言葉で語るように言っておられるのですか? 私は、どのように話し始めたらいいのか分かりません。もしあなたが、美しいものを美しくないものとの対比なしに考えるとしたら、美しいものとは何か、はっきり分からないはずです。美しい自然環境、花々、鳥、木々、湖……これらの美しさを知ることはできないでしょう」

「そちらでは太陽はいつも輝いていますか?」

「はい、いつも輝いています。私がこうした言い方をすると、皆さんはそれを単調なもののように考えるかもしれませんが、実際はそうではありません。皆さんが想像するようなものとは全く違っています」

「花を育てることは、地上世界より簡単ですか?」

「こちらでも花を育てます。花は地上と同じように育って大きくなります。しかし、こちらの世界には季節というものはありません」

「花を育てる方法や技術は地上とは違いますか? 例えば、水をやったりしなければなりませんか?」

「その必要はありません。私の知っているかぎりでは、こちらの花は自然に育つのです」

「そちらの世界は地上よりずっと美しいという点を除けば、地上世界ととても似ているのですか?」とウッズが聞いた。

「今、私は自分が住んでいる世界に限ってお答えすることができるだけですが、こちらには本当に広大で美しい多くの界層世界があり、それぞれの生活が営まれています。今、私が住んでいる所は、イギリスの美しい田舎にとても似ています。まわりの風物に関して言えば、ここには皆さんの知っている自然界のすべてのものがあります」

「そちらには町や村がありますか?」

「あなたが想像されるような町はありませんが、地上の町のような所はあります。そこには何千人という人々が集まって生活しています。しかしバスや電車はありません。そういうものはこちらでは必要ありません」

「他の場所に行くときには、どのようにするのですか?」

「歩いて行きます。もし離れた所へ行くときには、目を閉じて行きたいと思う場所のことを考えるだけです。そうするだけでその場所に行けるのです」

「ローズさん、あなたは家に住んでいるのですか?」

「はい、私は家に住んでいます。しかしこちらの世界では、必ずしも家は必要ありません。そうは言っても、私はこちらで家に住んでいない人にまだ出会ったことがありません」

「どのような家があるのですか? 地上のような家なのですか?」

「こちらにはあらゆるタイプの家があります。あなた方が田舎で見たことがあるような小屋のようなものから、家族全員が住んでいるような本当に大きな家まであります。肝心なことは、こちらの世界では、家は住む人の好みによってどのようにでも造られるということです。もちろんどの家もリアリティーがあります。どの家もここに住んでいる人々によって造られます。しかし家の造り方は地上世界とは違います」

「地上の大工のような人は必要ないのですか?」

「こちらにも建築家とか設計士のような人たちがいます。彼らが家を設計して建てるのですが、地上のように辛い肉体労働によって建てるのではありません。こちらの労働は、本当に楽しい造形作業なのです」

「そちらではお金を使うようなことはないのですね?」

「お金! こちらではお金で何かを買うようなことはしません。誰でも地上でつくり上げた生活習慣や価値観によって欲しいと思うものがありますが、こちらでは、それを思うだけで簡単に手に入れることができるのです」

「私が聞きたかったのは、あなた方はどのように大工に仕事を頼むのかということですが」

「私たちは、彼らにお金を払うわけではありません。彼らは家を建てることが好きだから家を建ててくれるのです。家を設計することが好きだからそうしてくれるのです。その仕事が好きだからしてくれるのです。それは演奏家がバイオリンを弾くのと同じことです。彼らは、楽器を弾いて友人や人々を喜ばせることがとても嬉しいのです」

「では、そちらの人々は相手を喜ばせるために、愛のためにすべてのことを行うのですか?」

「そうです。すべてを愛の思いからします。……話は変わりますが、仮に地上で音楽家や芸術家になりたかったのにそのチャンスがなかった人は、こちらではそれを実現することができます」

「そちらでは、自分のしたいと思ったことは何でもできるのですか?」

「そうです。地上の多くの人々は毎日奴隷のように労働をしなければならず、自分が本当にしたいことはできません。時間がなかったりお金や教育がないために、好きなことができません。しかしそういう人たちもこちらへくると、自分のしたいことが何でもできるようになります。ここでのそうした仕事は、彼らにとって喜び以外の何ものでもありません」

「あなたはそちらで食事をしますか?」ウッズが話題を変えて質問した。

「フルーツもナッツも食べます。こちらには果物やナッツの木があります。他にも地上にある、ありとあらゆる食べ物があります。しかし動物を殺して肉を食べるということだけはしません。こちらには肉のたぐいは一切ありません」

「ローズさん、花はどのように利用するのですか? 花を使って美しく飾り付けをするようなことをしますか?」

「もし、あなたがそうしたいと思うのなら当然それはできます。花を摘んで家の中に飾ることもできます。しかしこちらの世界にくると、ほとんどの人はそういうことをしなくなります。こちらにきて間もない人は、家を花で飾ることもあります。彼らは、家の中を花で飾るのは素敵なことだと考えています。しかし、やがてそれは不必要なことだと分かり始めます。花を摘むのは必ずしも善いことではない、と分かるようになるのです。

花は自然界の一部であり生命が宿っています。花を摘むことは正しくありません。それに、わざわざ花を摘んで家の中に持ってこなくても、自然の花の美を鑑賞できるのです。もしあなたが戸外の花々を見たいときには、わざわざ外へ出る必要はありません。ただ家の中に座ったまま、その花のことを考えるだけで見ることができるのです」

「家のドアや窓を開けたりするようなことをしますか?」

「その必要はありません」

「もし私がイスに座ってフリントさんのサークルに行きたいと思えば、目を閉じてただ考えるだけでいいのです。次の瞬間、そこにいるのです。皆さん方には少々奇妙に聞こえるかもしれませんが、事実なのです。本当にその通りなのです。地上で言う“時間”と“空間”は、こちらでは何の意味も持ちません」

「ローズさん、結婚について聞かせてください」

「どんなことを知りたいのですか?」

「そちらの世界での“愛情”について知りたいのです」

「それはどういう意味ですか?」

「私はそちらの世界には結婚はないと理解しておりますが」

「あなたの言う結婚とは何ですか? あなたの言う結婚とは、地上の人間がつくった法律・決め事にすぎません。私はそれが間違っていると言うつもりはありませんが……

「地上にも、とても神聖な愛情はありますが」

「これは驚くようなことをおっしゃいます。あなたは私の言ったことを勘違いしています。私の言った意味を正しく理解していません」

「私はあなたの言ったことを正しく理解しているつもりですが……。質問の仕方を間違えたようです」

「私が言おうとしたことは、本当に心から愛し合い惹かれ合った男女がいたら、彼らは当然幸福であるということです。そこに人間のつくった法律や儀式は必要ではありません」

「しかし、それでは子供ができませんね?」

「こちらの世界にも子供はいますが、その子供たちは、地上のような肉体の関係から生まれたのではありません。こちらでの結婚は、あなた方が考えるようなものとは違います。地上のようなSEXはありません」

「そちらの動物は人間に馴れていますか?」ウッズは再び話題を変えて質問した。

「とても馴れています。動物たちはみんな、ペットのネコのようにおとなしいのです」

「動物たちが殺し合うというようなことはないのですか?」

「ありません。そういうことは地上界だけのことです。地上では、ある面で動物本能が彼らを“弱肉強食”へと駆り立てていると言えるかもしれませんが、こちらにくれば地上のような動物本能は直ちに消え失せます」

「食べる必要がない! 何て素敵なことかしら。料理もつくらなくていい」とグリーン女史が言った。

「その通りです。もちろんこちらにきたばかりで、ある食べ物が食べたいと思う人もいます。その場合には、それを食べることができます。しかし、すぐに食べ物に対する嗜好性はなくなります。ほどなく食欲は消え失せるのです」

「そちらでは寝ることはありますか?」

「はい、もし寝たいと思うなら寝ることはできます」

「でも、それは必要ではないんですね?」

「ええ、必要ではありません」

「疲れを感じることはないのですか?」

「感じません」

「精神的な疲れを感じたときはどうしますか?」

「もし精神的に疲れたら、ただ精神をリラックスするだけです。目を閉じ、くつろぎます。そしてしばらくして再び目を開けます。するともう疲れはなくなっています」

「先ほどそちらには時間や空間はないと言いましたが、物事はどのようにして進展していくのですか? どのようにして物事の経過を知ることができるのですか?」

「分かりません。私の理解しているかぎりでは、時間を計る手段はありません。こちらには時間の意識がありません。こう言うと、あなた方には理解できないことも知っています。こちらには地上のような午後・夕方・夜といった区別はありません。地上でいう時間は、こちらでは何の影響も及ぼしません。結局、時間は地上の人間がつくり出した単なる目印にすぎません」

「そちらでは昼間と夜がありますか?」

「ありません。ただ地上のような睡眠・休憩をとりたいと思うなら、夜の闇が出現します。そのときは目を閉じさえすれば、すがすがしい状態になります。これ以上は、どのように説明したらいいのか分かりません」

「ローズさん、あなたは他の天体を訪れたことがありますか?」

「私は地球より低い天体へ行ったことがあります。しかし、あなた方が考えているような天体には行ったことがありません。私が行った天体は地球に似ていました。ところで今、あなたは私に、どのような天体に行ったことがあるかと聞いたのですか?」

「火星や金星です」

「私はそうした所へ行ったことはありません。私は火星や金星については何も知りません。科学に興味のある者なら知っているかもしれませんが」

「他の質問をします。そちらには法律とか規則といったようなものがあるのですか?」ウッズが尋ねた。

「こちらの世界には“自然法”があるだけです。こちらにくると、すぐにそのことが分かるようになります。こちらには地上世界のような法律や規則はありません。万人に当てはまり、万人が認める“法則”(自然法)があるだけです」

「分かりました。ところでそちらには雲はありますか? 太陽は輝いていますか?」

「太陽が輝いています。ときどき空に雲が見えますが、それは珍しいことです。こちらの空は、あなたがこれまでに見たどんな夢よりずっと美しいです。空は必ずしも青色とは限りません。ときどき緑色になったり赤くなったり、ありとあらゆる素晴らしい色に変化します」

「そちらに存在する色彩はとても美しいですか?」

「それは皆さんには想像もつかないでしょう。こちらには、地上には全く存在しない色彩があります。地上とは比較にならないほど無限の色彩があるのです」

「衣服はどうですか? そちらでは服を着るのですか?」

「とてもよい質問です。もちろんこちらでも服は着ます」

「それは地上のような衣服ですか?」

「いいえ、私が昔、地上で着ていたものとは違います。皆さんもこちらの世界にきたときには、そうした服は着ないだろうと思います」

「あなたが今、着ているものを説明してくれませんか?」

「人はこちらにきて間もないときは、自分の気に入った服を着ます。今世紀にこちらの世界にやってきた女性は“ドレスはなくてはならないもの”と考えていますから、しばらくの間はそれを着ることになります。しかしやがて彼女たちは、そのドレスが本当に必要なものでないことを悟るようになり、気に入らなくなります。そして徐々に考え方を変え、結果的に服装を変えるようになります」

「ローズさん、あなたは今、何を着ていますか?」

「皆さん方にどのように伝わるか分かりませんが、私は今、とても美しい白いドレスを着ています。ドレスの縁にはボタンが付いています。袖は長く、幅が広いです。体の真ん中で金色のベルトをしています」

「服の素材は何ですか?」

「地上にある素材で最も近いものを挙げるならシルクだと思います。私は髪をとても長くしています」

「洗濯をするとき何か問題はありませんか?」

「何もありません。泳ぐこともできます。もしあなたが水の中に入りたいと思うなら、その通りできます。しかし衣服は濡れたり汚れたりしません。こちらには、チリやホコリや泥といったものはありません」

「そちらの世界には地上のような海はありますか?」

「私はこちらで海を見たことはありません。その代わり、美しい川や湖があります。どうして海がないのか私には分かりません」

「川や湖にはボートはありますか?」

「美しいボートがあります。しかし大型船はありません。とても美しいボートです。それはベニスで見かけるようなものです」

「ゴンドラのようなものですか?」

「そうです。船は花々で美しく飾られています。そしてそこで祝い事が行われます。水上は一面、光で飾られます。その光は電気やガスでつくられたのではなく、人々の心でつくられたものです。これが私の精いっぱいの説明です。私にはそのようにしか説明できません」

「何と素晴らしい!」ウッズが言った。

「そちらには町はありますか?」

「美しい町があります。汚く陰気な地上の町とは違います。その中に特別に美しい町があります。町には劇場や娯楽場のような所もあります。地上の劇場で上演されているようなミュージカルを見ることもできます。ただし、それは地上のミュージカルよりずっと素晴らしいです。

こちらの世界のすべての存在物には目的があります。意味なく存在しているものは一つとしてありません。もちろん私たちは笑うこともします。こちらにもコメディーのようなものがあります。こちらにきたからといって、ユーモアのセンスを失うわけではありません。

ご存じのように、地上の人々は正しいことを何も知りません。教会の日曜学校では、いつも全く間違ったことが人々に教えられています」

「教会は、いつもわれわれに馬鹿げたことを教えてきました。そして今でもそんなことをしているのです」とグリーンが言った。

「彼らは、死後の世界にいる私たちのことを、空を飛び回ったり、ハープを奏でたり、雲の上に座ったりしていると考えているのです。それは本当におかしな考え方です」とローズは言った。

「私は、そちらにも学校のような所があると聞いていますが……」ウッズが質問した。

「こちらには大きな学校や博物館があって、そこではあらゆる国々や民族の歴史を学ぶことができます。そこにないものはありません。すべてのものが揃っています」

「あなた方は話をしますか?」

「すみません。もう一度言ってください」

「そちらの世界で、あなた方は話をしますか?」

「その必要はありません。しかし話そうと思えば話せます。それはその人の魂の発達いかんにかかっています。こちらでの生活が地上の時間にして数年もすれば、人は必ず成長するようになります。そして話すことは不必要であると、悟るようになります。こちらでは地上時代のように話をしなくても、自分の考えを伝えたり、相手の考えを受け取ったりすることができるのです。テレパシーのようなものです」

「高度なテレパシーですか?」

「そうです。私はまだあまり上手ではありませんが……。いつかもっと上手になりたいと思っています」

「人々が地上で培ってきたもの、行ってきたことは、何でもそちらの世界に持って行けると聞いていますが、それは本当ですか?」とウッズが聞いた。

ローズの答えは返ってこなかった。「あなたは今、何と言いましたか」という他の声が聞こえた。それから何の声も聞こえなくなった。交霊会の参加者は、ローズはどこかへ行ってしまったか、誰かに引き離されたかと思った。すると、

「さようなら、別の時にきた方がいいようです」とローズの声がした。

【再び中断】それから、

「そうそう、言うのを忘れていました――よいクリスマスを」

「ありがとう、ローズさんもよいクリスマスを」


約十年後、彼女は約束を守って再び現れた。そして彼らに、新しい生活について語り始めた。ローズは以前と比べ十年分の成長を遂げていた。彼女の新しい生活は、十年前の生活とは少々違い始めていた。

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