5.ガイド(指導霊)との出会い
テッド・バットラーと女性ガイド
「テッド・バットラー」は、死後もまるで地上世界の旅行者のように電車に乗って時を過ごしていた(もちろん彼の姿も乗り物も、地上の人間の目には見えない――訳注)。その電車の中で彼が最初に語りかけた隣の女性が、実は彼に手を差し伸べる役目のガイド(指導霊)だったのである。
「あなたは私に何をしてくださるのですか?」彼はその女性に尋ねた。
「あなたは、この状態から抜け出る時がきたと思いませんか。あなたをここに押しとどめているのは、実はあなた自身の考えなのです。地上の辺りをうろつくことはもうやめませんか。地上の誰もあなたには気がつきません」
「本当にまわりの人たちは誰ひとり自分に気がついてくれません。しかし、とにかく私は何をしたらいいのか分からないのです」と言いました。
「そうではありません。あなたをここにとどめているのは、あなたの心の状態なのです。もしあなたがこれまでの自分の考え方を捨て、より高い次元のことを考えるようになれば、ここから完全に抜けられるのです。もちろん今の考えをなかなか変えられないのは、あなたがこれまでたどってきた道程のせいでもあるでしょうし、あまりに突然の死に方のせいでもあるでしょう。あなたの奥様やお母様があなたの死を嘆いていらっしゃるせいであることも存じております。しかしあなたは、ここから完全に抜け出すべきなのです。さあ、私と一緒に行きましょう」
「どこへ行くのですか?」
「私があなたをお連れします。心配しないでください」
「じゃあ、次の停留所で降りましょう」と私は言いました。
「ここでは電車を待ったり駅で電車から降りたりする必要はありません。自分が降りたいと思えばいつでも降りられるのです。あなたは、ただ心で思いさえすればいいのです」
「私には、あなたの言っていることがどういうことか分かりません」
「じきに分かるようになるでしょう。とにかくここでは、バスに乗ったり座ったり、停留所で降りたり、約束場所で車に乗るというようなことは全く不要なのです。地上の人間がするようなことは、ここでは必要がないのです。あなたはこれまでの地上の習慣から、そのように行動しているにすぎません。あなたは今、地上の習慣は大切ではないということを知ってそれを捨て去るべきです。こちらでは、ただ考え方を変えるだけで、その状態から抜け出せるのです」
「どうしても私には分かりません」
「では私の手を握って目を閉じ、何も考えないようにしてください。ただ心を空っぽの状態にしてください」
テッド・バットラーは彼女に言われた通りにした。すると二人は、アッと言う間に新しい家に着いてしまった。
この女性は、あの世における案内人(ガイド)であった。地上の人間が死ぬと、どんな人にでも自動的にそうしたガイドが付き添うようになる。これまでのすべての交霊会の記録によれば、自力でこのステップ(死の第一関門)を通過した人はいないようである。死の直後、ほとんどの人は地上への未練や地上とのつながりを残しているが、やがて先に他界している親戚やこの女性のようなガイドに出会って、初めて地上との結び付きを断ち切ることができるようになる。
ホプキンスと妻との出会い
前述した「ジョージ・ホプキンス」は、牧師の家から出てまわりをうろついていた。それは牧師が彼のことに気がつかなかったためである。数日間、地上をうろつき、自分の葬式にも出たのである。以下は、その後のホプキンスの話である。
(ホプキンス霊)
彼らは私の遺体を古い教会墓地へ運んで、そこへ置きました。そのとき突然、すでに死んでいる妻のポルのことが頭に浮かびました。私は、「もし私が死んでいるのなら妻と一緒にいられるはずだ。彼女はどこにいるのだろうか?」と思いました。次に私は、彼らが私の遺体を墓穴に入れるのを立って眺めていました。儀式が終わってから、私は彼らの後に付いて行きました。
すると何と! 前方から妻が私の方に近づいてきたのです。しかも驚いたことに妻は、私が彼女に初めて出会った頃の若い姿でした。彼女は美しく見えました。本当に美しかったです。そして彼女のそばには、十七、八歳で死んだ私の弟も一緒にいました。彼は金髪の美少年でした。
二人は笑いながら私の方に近づいてきました。妻と弟は私を適当になごませてくれ、ここへくるのが遅れて申し訳なかったと言いました。そして、「私たちはあなたの健康があまりすぐれないことを知っていました。しかしまさか、こんなに急にこちらの世界にいらっしゃるとは思っていませんでした。あなたが亡くなったという連絡を受けましたのに、早くくることができなくてすみませんでした」と言いました。
私はそれを聞いて少し奇妙に感じました。
「二人は地獄をどのように考えているのだろうか?」とふと思いました。私はそのとき、すでに自分が死後の世界にいることは分かっていました。とは言うものの、私は以前と同じように動き回っていました。すべてのものがずっと軽くなったことを別にすれば、昔と何ら変わりありません。自分の身体に重さがあるようには思えないし、以前のような痛みも苦しみも感じられませんでした。
二人は私にいろいろなことを説明しようとしましたが、あまり多く語ろうとはしませんでした。ただ、私が早くこちらの世界に慣れて落ち着いて生活できるように、とだけ言いました。私は尋ねました。
「今、私に落ち着いて生活するようにと言いましたが、どこに住むのですか? ここの誰も私たちが望むようなものは欲しがらないように思いますが。誰も地上のことに関心を示さないと思いますが」
「その通りです。しかし今はそのことについて、あまり心配しないでください」
夢で見たあの世の世界
私は牧師のことを二人に話しました。
「あなたはもう彼に会いたくないでしょう。もうこれ以上、地上人に会いに行く必要はありません。その牧師も他の人々と同様、何も真実を知らないのです」
「ところで、これから私たちはどこへ行くのですか?」
「あなたを私たちの家へ連れて行きます」
「それはどこにあるのですか?」
「どこにあるか今、正確に説明することはできません。しかし私たちはちゃんとそこへ、あなたを連れて行きます。あなたはきっとその家が気に入るでしょう。そしてその家を見れば、あなたは以前にもそこへ行ったことがあることを思い出すでしょう」
「どうして私がそこを思い出すことができるのですか。私はまだ一度もその家に行ったことがないのに」
「いいえ、実はあなたは行ったことがあるのです。睡眠中に何度も訪れているのです。本当は、あなたはその家をとてもよく知っているのです」
それを聞いて私は考え始めました。
「思い出せません。ただ私は変な夢を見たことがあります。一、二度、素晴らしい庭のあるとても美しい場所に行った夢を見たことがあります。そういえば、昔飼っていたローバー(犬)もそこにいました」
「いいえ、それは夢ではないのです。それは現実のことなのです。あなたが寝ていたとき、あなたは私たちと一緒にいたのです。あなたの肉体が寝ているとき、あなたの魂は肉体の束縛から離れ、自由に旅行したり私たちと一緒にいることができるのです」
「それは素晴らしいですね」
「これまでのあなたとの違いに気がつきませんか?」
「ええ、たしかに違っていると思います。昔のようには感じません。地上でよく体験したような痛みや苦しみはありません」
「あなたはもう、ご自分の姿を見ましたか?」
「いいえ、そんなことは考えもしませんでした」
「こちらにおいでください。あなたの姿をお見せいたしましょう」
私は自分自身の姿を見ることができるとは面白いと思いました。それで、
「私は地上では、鏡でよく自分を見ていましたよ」と言いました。
「いいえ、鏡で見るのではありません」
それから二人は、私をとても美しい景色や家々の見える場所に連れて行きました。そこは、かつて私が夢で見たのと全く同じ場所でした。そしてそこに、何年か前の夢の中の私がいたのです。(霊界ではこのように過去の出来事をスクリーンに映し出し、本人や第三者がそれを見ることができる――訳注)
私は昔、朝早く目覚めたとき夢の中の出来事を覚えていたことがあります。そのとき、これは不思議なことだと思いました。今、目の前にあるものはそのときの光景と全く同じでした。
ヒギンスとガイド
「バットラー」と「ホプキンス」は死後、直ちにガイドと出会ったわけではなかった。そのことは彼らにとって少々不運だったかもしれない。
一方「アルフレッド・ヒギンス」は、死後、直ちにガイドとの出会いを得ている。彼は生前、ブライトンの画家で装飾家でもあった。一九六三年十月十四日、彼は交霊会に現れた。グリーン女史はいつもと同じ質問をした。
「ヒギンスさん、どのようにしてそちらの世界に行ったのですか? またそのときどのように感じましたか?」
「私はハシゴから落ちました」と彼は早口で答えた。
「そのとき私は意識を失いましたが、まだ死んではいませんでした。私は病院で死んだのです。それは今から数年前のことです。私は絵かきで装飾家でした。あなた方はブライトンからきたのですね」
「そうです」とグリーンは答えた。
「私もしばらくブライトンにいたことがあります」
「ブライトンのどの辺りですか?」
「それは今からだいぶ前のことですが、オールドステインの裏手にいました」
「オールドステインの裏ですか?」
「そうです」
「ヒギンスさん、そちらの世界へ行ったときの様子を教えていただけませんか?」
「何ですか?」
「そちらの世界へ行ったとき、どのようにしてご自身を自覚されましたか?」
ヒギンスは語り始めた。
(ヒギンス霊)
最初、私は川を見渡す土手の上に横たわっていました。私はどこにいるのか全く分かりませんでした。どのようにしてそこにきたのかも知りませんでした。そのとき誰かが私の方に近づいてくるのが見えました。その人はまるで僧侶のような服装をしていました。もちろんそのときは、彼が誰であるのか知るはずもありません。彼は長い法衣のような服を着て、たいへん慈悲深い紳士のように見えました。そしてとても若く見えました。
私は、彼はきっと僧侶だと考えました。本当のことを言えば、そのとき、彼はイエス・キリストではないかと思ったほどでした。絵で見たことのあるイエスのようでした。後になって彼がイエスでないことが分かりましたが……
彼は私の近くにきて立ち止まり、話しかけてきました。
「こちらの世界へようこそ」
「ようこそ? 私はあなたがどうしてそんな言い方をするのか分かりませんが」
「ではあなたは、ここがどこかまだご存じではありませんね」
「ええ、私は今この場所がどこか分かりません。とても楽しい所だと思いますが」
「あなたは死んだのですよ」
「何ですって!」
「そうです。あなたは死んだのです」
「私は死んでいません。どうして私が死んでいるんですか。私にはちゃんとあなたが見えています。ごらんなさい。私は死んでいません。私にはこのようにちゃんと身体もあります」
「多くの地上人は死んだら何もなくなってしまうとか、天国か地獄のような所へ行くと考えているようです。でも、こちらには天国のような場所も地獄のような場所もありません。こちらの世界は、あなたが見て分かるように、地上と全く同じ“実在性・実感”のある世界なのです。最初はしばらく新しい世界に当惑するでしょう。しかしあなたは不幸ではありません。私が見るかぎり、あなたはとてもリラックスしているようです。本当に静かに落ち着いて見えます」(ヒギンスは、先の話の「バットラー」や「ホプキンス」とは違って、死後、直ちにガイドとの出会いを得ているが、それはヒギンスが死の直後における精神的動揺が少なかったためである。心の乱れがひどいときには、すぐ近くにいるガイドになかなか気づくことができない――訳注)
「私は家族や知人のことが気になります。彼らにとっても私の死は大きなショックだったと思います。私には死んだときの記憶がありません。ハシゴから落ちたことも正確には覚えていません。“落ちる!”と思ったことだけは覚えていますが。その後は全く記憶がありません」
「あなたは病院で亡くなったのです」
「そうですか」
「ほんの短い時間だけなら、ご家族や知人に会うために地上に戻ることができますが?」
「それは面白そうです。ぜひ、みんなに会いたいです」
「ただし前もって申し上げておきますが、地上の誰も、あなたには気がつきませんよ」
「どうしてですか?」
「彼らはあなたが近くにいることが分かりません。彼らはあなたを見ることもできないし、もしあなたが話しかけても、あなたの声を聞くこともできないでしょう」
「それでは地上へ行く意味がないのですね」
「それはあなた次第です」
「私は行きます。できたら妻のアダがどのように生活しているのか見たいのです」
「分かりました。では行きましょう」
死の直後で、まだ地上世界に意識が縛られている間は、時として地上に残してきた最愛の人々の所に、何がなんでも行ってみたいと思うようである。彼らはその度ごとに、地上に行くことは彼ら自身にとってもまた地上の家族にとっても、何の慰めにもならないことを教えられるのである。
が、結果的には大部分の者は、自分の思うところに従って地上に行くようになるのである。アルフレッド・ヒギンスも、その一人であった。