7.想念が創り出すあの世の環境

母に聞いたあの世の家族の様子

「暖炉があった所から美しい田舎への突然のトリップは、本当に不思議でした」と、ビッグスは語った。それから彼は母と二人で道を歩いて行くが、その間、彼女は彼にいろいろなことを話した。


(ビッグス霊)

「お父さんはどうしていますか?」と私は聞きました。

「お父さんとはこちらの世界でも会います。しかし一緒に生活してはいません。私たちが離婚したのは知っていますね」

「もちろん知っています。地上時代、二人がうまくいっていなかったことは知っています」

「彼と会うことはありますが、いつも一緒にいるというわけではありません。今、私はこちらの世界で気の合った人たちと住んでいます」

母は、祖母と曾祖母とフロリーと一緒に住んでいると言いました。フロリーというのは母の大好きな姉で、私がまだ小さいときに死んでいます。

「フロリーと私は瓜ふたつでした。好みが全く同じでした。彼女が死んだとき、私がどんなに落胆したか覚えているでしょう」

「ぼんやりと覚えています。何しろそのとき私は小さかったので……

「フロリーと私は今、こちらの世界で一緒にいます。そして私たちは病院で働いています」

「何ですって?」

「私たちは病院で働いているんです」

「病院! こちらにも病院があるんですか。死んでしまえばそういうものは必要ないと思っていました。痛みも苦しみもなくなるのですから。病院は何のためにあるのですか?」

「こちらの病院は地上の病院とは違います。精神的に不安定な人には心の治療が必要なのです。彼らを手助けしたり導いてあげなければなりません。でも、そういう人たちのお世話をするのは楽しいことです。それをしているとき、とても幸せです。私は他にも多くの若い人たちのお世話もしています。あなたに『アート』というお兄さんがいたことを覚えていますか。私はよく彼に会います」

「アート? 私にアートという兄がいたなんてことは知りませんが」

「そう、あなたが覚えていないのも当然ですね。彼はあなたが生まれる前に幼くして死んでいます」

「そういえば少し思い出しました」

「彼は赤ちゃんのときに死にました。しかし彼は、その後こちらの世界で成長しました」

「それはどういうことですか? よく分かりませんが」

「こちらの世界でしばらく生活しなければ、いろいろなことは分からないでしょう。時間がたてばこちらの様子に慣れてきます。そうしたら徐々に分かっていきますから、今は気長にかまえてください」

「あとに残した地上の家の方はどうなっているのでしょうか? 何か問題はありませんか?」

「地上のことを心配するのはおやめなさい。何の役にも立ちません」

「どういう意味か分かりませんが。私に関係のあることじゃないですか」

「今は地上のことは考えないようにしてください。地上のことは忘れるようにしてください」

「もし私の葬式があるなら、私はそこに行くべきじゃないですか」

「今はそういうことは言わないで」

「分かりました。でも私は自分の葬式に誰がくるのか知りたいのです。私の友人のアルフィーはくると思いますが」

「そんなことは忘れてください」

あの世でのコミュニケーション

母は私に話し続けました。今、私は母が話し続けたと言いましたが、面白いことに母は口を開かずに話していたのです。突然、母が私に話しかける声が聞こえましたが、何か言葉を語っているわけではありません。私はしばらく立ち止まりました。

「行きましょう」と母が言いました。

「私はどうしてか分かりません。お母さんは確かに私に話しかけています。それなのにお母さんの口は動いていません。まるで腹話術のようで、とても不思議です」

「あなたも、じきにこちらの世界の話し方を身に付けるでしょう。現にあなたは私の考えていることが分かっています。私の考えを受け取っています」

「はい、でも現実的にはお母さんは話してはいません。少なくとも私にはそう見えます」

「あなたも、そのうち同じようなことができるようになるでしょう」

「さあ、行きましょう。あまりそのことを気にしてはいけません。あなたはもっと多くのことを知らなければなりません」

私は本当に当惑しました。

記憶にある橋のレプリカ

それから私たちは、ある橋にきました。この橋も不思議でした。それを渡り始めたとき、私は独り言を言いました。「自分はこの橋を知っている。この橋は確か自分が小さい頃よく行った場所にあった」――母に私の独り言が聞けるとは知りませんでした。

母は言いました。

「その通りです」

「不思議です。どうしてそれがここにあるのですか? もし私が死んでいるなら、どうしてこんなことが起きるのですか。私の覚えている橋は古い村の近くにありました」

「そのうちに分かるでしょう。こちらの世界には、地上のありとあらゆるものの複製品(レプリカ)が存在するのです。私があなたをここへ連れてきたのは、あなたの昔の楽しい思い出を呼び起こそうと思ったからです。それはあなたにとってよい影響をもたらします。あなたは、あのときの小さな村と人々を覚えていますか?」

「はい」

「それらもこちらの世界にあるのですよ」

「私の地上時代にあったものが、どのようにしてここに存在するようになるのですか?」

「ここにあるのは、あなたの地上時代のものと同じです。しかし別の意味では同じものとは言えません。とは言っても、それらは地上のものと同じくらい実在感がありますが」

「私にはさっぱり分かりません」

「気にしないで。さあ、メイの所へ行きましょう」

「誰ですか?」

「メイです」

「メイおばさんですか?」

「そうです」

「でも彼女は何年も前に死んでいるじゃないですか」

「もちろんそうです。私だって死んでいるのですよ。あなたはそんなことも忘れたのですか」

「そういえばそうでした」

「メイに会いに行きましょう」

「彼女は村に住んでいるのですか?」

「そうです。以前と同じように村に住んでいます」

「どうも分かりません」

「最初は何も分からなくて当然です。少しずつ分かるようになります。地上にいたとき、メイは村でいつも幸せに過ごしていました。彼女はいつも自分の小さな家を大切にしていました。あなたも知っているでしょうが、村はずれにあったあの小さな家です」

「思い出しました」

「あなたは自分の目で、それが見られるのです」

地上時代と同じおばの家

私はまるで過去に戻ったようでした。地上時代に見たのと全く同じおばの家がありました。家の前には小さな低いレンガの塀がありました。生前、おじがよく自慢していた小さな庭もありました。それは本当に素晴らしい庭でした。彼は庭木と花々をいつも大切に手入れしていました。おじとおばが家のドアの所に立っていました。

おじは私の知っているおじとは、まるで違って見えました。私の知っているおじは、とても年老いて背中が曲がっていました。しかし目の前のおじは背が高く背筋は矢のように真っすぐ伸びていました。そしてとても若く、はつらつとして見えました。彼らは私を歓迎してくれました。それから家の中に案内してくれました。

家の中のものは、すべて真新しく清潔で明るく輝いていました。辺りはまるで夏の日のようでした。そのうちに私は、ここは夏のようだというのに暑さを感じないことに気がつきました。また太陽も見あたりません。しかし、とても明るいのです。私はそのことを聞いてみました。

「もちろんここでは暑すぎるとか、寒すぎるというようなことはありません。いつも快適で心地よいのです。そして光に包まれています。ところでお茶はいかがですか?」

私はその言葉に驚きました。

「冗談を言わないでください」と私は言いました。

「もし私が死んでいるのなら、お茶を入れるなんて言って、からかわないでください」

おばは笑って言いました。

「あなたが最初こちらの世界にきたとき、あなたのお母さんが語ったことが本当に分かるようになるでしょう。ここのすべてのものは地上と全く同じ形につくられています。それによって地上からきて間もない者は、安心感と親しみを持つことができるのです。もしあなたが何か欲しいものがあるなら、すぐにそれを手に入れることができます。しかしやがて、そうしたものは不必要だということが分かるようになるでしょう。でも、もし今あなたがお茶を飲みたいのなら、すぐにでも飲めるのですよ」

「死んだ人間がお茶を飲めるなんて考えてもみませんでした」

「今はそれについて、あまり多く語るつもりはありません。すぐに分かることですから」


おばは裏のドアから出て行って、お茶の入ったポットを運んできました。面白いことに、それは地上時代と全く同じものでした。私はそれをいつも見ていたので覚えていたのです。それは古い茶色のポットで注ぎ口が欠けていました。彼女はこのポットを何年も使っていたのです。以前と同じ古いカバーがティーポットに掛けてありました。彼女が自分で編んだ、お気に入りのカバーでした。私は言いました。

「まさかこうしたものは、おばさんが死んだときに一緒に持ってきたわけではないでしょう?」

「もちろん違います。あなたは、それらがここにあるのを見て驚いていますが、実は私も驚いているのですよ。こちらの世界では、あなたが欲しいと思ったり大切だと思うものは何でも簡単に手に入るのです。少なくとも、あなたがそのことを考えている間は存在するのです。もし、あなたがそれについて考えることをやめたり必要だと思わなくなったなら、それはあなたの目の前から消え去ります。

今、目の前にあるこうしたものは、今日だけここにあるのです。それはあなたが、ここにきたばかりだからです。そしてあなたが昔、私たちの所にきてお茶を飲んだときのことを思い出したからなのです。古いすずのお盆を覚えていますか? あの絵の付いたお盆です」――昔見たのと同じような錫のお盆がそこにありました。

「そのお盆も、ここにいる人たちの思いで存在しているのですか?」

「あなたがそれについて考えている間だけです。あなたがそのお盆に愛着を感じている限り存在するのです。しかし愛着がなくなれば直ちに消え去ります」

「どうしてもよく分かりません」と私は答えました。

自分の葬式を見る

地上にいる妹は一見、私の死を嘆いているようですが、本当に悲しんでいるわけではありません。彼女は、私のためにわざわざ何かをしてくれるような人間ではありませんでした。義理で仕方なく私と付き合っていたにすぎません。彼女は悪い人間ではありませんが、多分に享楽的な傾向があります。彼女は、あまりぱっとしない男と暮らしていました。

私は自分の葬式のことを考えました。そして葬式に出たいと思いました。私はこちらの世界にきて以来ずっと、地上のみんなの前に姿を見せるべきだと考えていました。母は笑って言いました。

「いったい、そこへ何をしに行きたいのですか? あなたはすでに地上の人生を終えているのですよ。どうして自分の葬式に行ってみたいなんて思うんでしょう?」

「私はお母さんの考え方は間違っていると思います。自分の葬式を見るのは当然ではないですか?」

「もしどうしてもそうしたいのなら、私たちもあなたと一緒に行きましょう。でも今しばらくは休憩をとった方がいいのです。ベッドで休みましょう」

「ベッドですか!」

「本当のことを言えば、休息は必ずしも必要ではありません。しかし今のあなたには必要です」

私はベッドに行って眠りました。


眠りから覚めたとき、私は田舎の共同墓地に立っていました。その場の状況が私の心を混乱させました。私は生前、保険に入ってお金を払い続けていました。死んだときには、そのお金でまともな墓地に葬られるとばかり思っていました。しかしそのとき、私の遺体は貧困者と同じ共同墓地に埋められようとしていました。もっといい墓に葬られるためにお金を残してきたのにと思うと、私は腹が立ってきました。私が自分の葬式に行ってみたいと思ったのは、実は自分がいい墓に葬られるのを見たかったからなのです。

墓地には妹の他に二人の人間がいました。そのうちの一人は私のよく知っている人間で、学校も一緒でした。もう一人は私の全く知らない人間でした。私のひつぎは墓穴に降ろされました。そのとき雨が激しく降ってきました。年老いた牧師は急いで儀式を進めました。その急ぎようといったら、列車に遅れまいとして駆け込む乗客のようでした。妹は私のためにいい墓地を買おうとしてくれなかったことが分かりました。

そのこと自体は大したことではないかもしれませんが、私をもっといい墓地に葬ってくれるのが物の道理だと思いました。私はそうした考え方で地上人生を過ごしてきたのです。そのために、わずかばかりのお金を残してきたのです。しかし彼女はそのお金を私の墓のために使いませんでした。私は腹が立ち、「この仕返しは必ずしてやる!」と思いました。

母の説教

すると母が言いました。

「やがて彼女もここにやってきます。そのときには、あなたはすでにそんな考え方はしなくなっているでしょう。結局……

「あいつは何というお金のムダ遣いをしてるんだ!」

「あなたがどんな墓地に葬られようと大したことではありません。大切なことは、あなたが今どこにいるのかということです。あなたの残したわずかなお金は彼女の役に立っているでしょう。あなたはそんな考え方をすべきではありません」

「今、お母さんは私の考え方は間違っているとおっしゃいましたが、でも妹は、私が自分の墓地のためにお金を貯めていたということを知っていたのですよ」

「立派な墓であろうがみすぼらしい墓であろうが、それが何だというのですか? また牧師がそそくさと儀式を済ませたからといって、それがどうだというのですか?」

「じゃあ、いったい何が大切なんですか?」

「あなたは現にこちらの世界にいるのではないですか。それですべてじゃないですか」

「確かに今、私はここにいます。そしてすべてがうまくいって何の問題もありません」

「ではこれ以上、地上のことについてあれこれ悩むのはやめにしましょう。いずれ牧師も妹もここにくれば、自分の人生を見せつけられるようになるのです。そして真実に直面し、地上人生を振り返り後悔するようになるのです。あなたは彼らを責めることはできません。彼らは何も知らないのですから。

あなたの妹には確かに愚かなところがありました。しかし彼女もまた私の娘です。彼女はいずれこちらにきてから、何が真実かを学ぶようになるでしょう。それは牧師も同じです。もうあなたには分かったでしょう。大切なのは墓の中の死体や儀式ではなく“あなたの内面”――ありのままのあなた自身の心なのです。見せかけのあなたではなく、取りつくろったあなたではなく、ありのままのあなたの心が肝心なのです。大切なのはそれだけです。

これまでのあなたの人生を振り返ってみれば、あなたは他人に害を与えたことがありませんでした。いつも善意を持っていました。あなたは特別いい教育を受けたわけではなく、また教会にもまじめに通ったわけではありません。しかし、あなたは決して悪い人間ではありません。あなたは自分の人生を精いっぱい生きてきました……

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