(3)物質化現象
――幽霊現象
すでにこの世を去った人が、もう一度、地上人の肉眼に見える形をとって現れることがあります。これが巷でよく言われる「幽霊現象」であり、私たちの周りには、そうした死者の姿を見たという人々がかなりいます。最近では米国世論研究協議会が、米国人の半数に近い四十二パーセントの人が、すでに死んだ誰かとの接触を持ったと信じており、このうち七十八パーセントの人が死者の姿を見たと報告しています。
歴史書をひもといてみると、数えきれないほど、同じような記述が出てきます。有名なものは何と言っても聖書に出てくる記述で、イエスが死後、弟子たちの前に生前の姿で現れたというものです。クリスチャンにとって、「幽霊として現れた」というような解釈は復活というキリスト教の根本教義を否定する受け入れがたいものであり、イエスを
この現象にも、エクトプラズムが中心的役割を果たしています。地上側にエクトプラズムを大量に放出できる霊媒がおり、一方、霊界側には他界後あまり時間の経っていない霊がいます。この霊はいまだ地上の波動を残しているためエクトプラズムに感応し、ある程度までこれと接触することができます。またエクトプラズムを吸収して、自分の生前の身体をつくり出すことができるようになります。こうしてできたものが“幽霊”ですが、幽霊形成の過程は、ほとんどの場合、霊自身にとって無自覚のうちに進行していきます。幽霊が無表情であることが多いのは、霊自身に主体的な自覚がないところで幽霊現象が引き起こされてしまうからです。霊本人も知らないうちに、地上人のエクトプラズムを自分のうちに吸収して、エクトプラズム体をつくってしまうのです。
そうした一般的なケースとは別に、スピリチュアリズムの初期に頻出した幽霊現象は、「幽霊像をつくり出して地上人に見せよう」との霊界側の明確な意図のもとに引き起こされたものでした。この後で紹介する「ケーティ・キング霊」の場合がそれであり、霊界側から積極的に幽霊をつくる働きかけがなされています。
近代心霊研究史上、「ケーティ・キング霊に関する研究」ほど注目を浴びたものは他にはありません。この幽霊現象を研究したのは、先に述べたクルックス博士です。実験で使われた霊媒は、当時十六歳だったフローレンス・クック嬢で、博士はクック嬢を十八歳になるまで徹底的に調査・研究しました。研究は主に博士の実験室を用いて行われ、いずれの実験にも信頼のおける知人や友人を数名招待して、証人になってもらう手筈を整えています。
クック嬢がトランス状態に入ると、彼女の身体から放出されるエクトプラズムによって、地上時代に「ケーティ・キング」と名乗っていた女性の幽霊が出現します。この幽霊の物質化レベルは完璧で、地上人と全く変わらないような身体がつくり上げられました。驚くべきことに、この幽霊は呼吸をし、汗もかき、心臓も鼓動していました。ケーティ霊は、参加者の間を歩き回って一人ひとりと言葉を交わし、特に子供との対話を楽しみました。
博士はその様子を、ケーティ霊の許可を得て四十数枚の写真に収めています。ケーティ霊が霊媒クックの詐欺や仮装でない証拠として、ケーティ霊とクックの二人が並んでいる写真も撮られています。その二人を比べると、背の高さ・髪の色・容姿が全く違っていることが分かります。
写された写真の中で特に興味深いのは、(現在の)英国王立医学会のガリー博士がケーティ霊の脈を取っているシーンで、霊媒クックが九十だったのに対し、ケーティ霊の脈拍はずっとゆっくりで七十五でした。そして実験が終わると、ケーティ霊の姿は徐々に消えていきます。あるとき、ウォルクコンという非礼な男が急にケーティ霊に抱きついて離さないでいると、そのまま溶けて消えてしまいました。
こうした足かけ三年に及んだ調査も、ケーティ霊の使命終了宣言をもって終わることになりました。ある日、「私の使命はこれで終了しました。もう二度と出てまいりません。あちら(霊界)での仕事が待っておりますので……」と言い、その言葉どおりそれきり出てこなくなりました。
このケーティ霊の最後の言葉は、当時の幽霊現象に代表される一連の心霊現象が、霊界側から周到な準備のもとで演出されていたことを示しています。霊界側は、そうした心霊現象を通じて地上人に「霊魂説」を認めさせ、死後の世界への関心を促そうとしたのです。その目的をより効果的に達成するために霊界側は、当時の第一級の科学者で、しかも徹底した懐疑論者であったクルックス博士を選んだものと思われます。そして霊界側の計画どおり、博士は生々しい心霊現象に直接ふれる中で、自らの考えを根本から変えていくことになったのです。
※――エクトプラズムの研究の箇所で紹介した、ノーベル生理学・医学賞受賞者でスピリチュアリストであったリシェは、クルックス博士が心霊現象を肯定する実験結果を公表した時点では、まだスピリチュアリズムに反対する立場をとっていました。クルックス博士を尊敬していたリシェは、博士が心霊現象を肯定したというニュースを耳にしたとき、「博士ともあろう方が何ということを……」と嘆いたと言われます。そしてクルックス博士が物質化したケーティ霊の写真を公表し、しかもその物質化霊には脈拍があったという報告書を読んだときには、「いかに尊敬申し上げる高名な物理学者とはいえ、私は声を出して笑ってしまった」と告白しています。
しかしそのリシェも、一八九二年、イタリア人霊媒ユーサピアによる心霊実験会に委員として出席し、驚異的な心霊現象を目のあたりにして圧倒されることになります。そしてそのとき彼は、「神よ、私が間違っていました!」と叫んで、これまでの懐疑的な態度を一変させることになりました。
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