(1)空中浮揚

――霊媒ホームとクルックス博士

人間が空中に飛び上がったり、しばらく空中に浮くなどという話を聞けば、まるで漫画か映画の中のシーンであるかのように思ってしまいます。しかし実際に、そうした現象は数多く存在するのです。インドやヒマラヤの行者、TM瞑想(タントラヨーガ)の空中浮揚は有名です。また日本でも密教行者などの空中浮揚は知られており、テレビでも放映されたことがあります。空中浮揚は、空中浮遊と言われることもあります。)

この「空中浮揚」において心霊研究史上、最も有名で際立った能力を発揮したのが、スコットランド生まれの米国人D・D・ホームです。彼はトランス状態で空中に浮揚し、ビルの三階の窓から出て、しばらしてまた窓から帰ってくるという、常識では考えられないような離れ業をやってのけました。しかもそれを白昼堂々と、何人もの人間が見ている前で、何回も(百回以上)行っているのです。ホームは他のあらゆる心霊能力にも力を発揮しています。ホームによる空中浮揚が事実である以上、聖書の中の“イエスが水の上を歩いていた”という記述も単なる作り話ではなく、現実であった可能性が考えられるようになります。

ホームの霊能力のあまりの素晴らしさに“超人として崇拝の対象にしよう”という動きが人々の中に生じ、しばしば彼を困らせることになりました。彼はきわめて高潔な人格の持ち主であり、生涯にわたって一度も報酬を受け取りませんでした。ホームは、自分が人々の崇拝の対象になるということを最もみ嫌っていたのです。彼は、科学者から要請のあったあらゆる心霊実験に喜んで応じました。彼は生涯を通して、一度もトリックの嫌疑をかけられたことはありませんでした。

ホームの人格がいかに高潔であったとしても、話を聞いただけでは、人間が空中に浮き上がるなどということは信じられないのが普通です。現場でホームの空中浮揚を見ていたという全員が集団催眠にかけられ、幻を見せられたのではないか、と疑うこともできます。そこで、この霊媒ホームを使って研究を始めることになったのが、先に述べた当時第一級の物理学者であったクルックス博士でした。彼は一八六三年、王立協会フェローに選ばれ、一八九七年にはサーの称号を受け、後には王立協会をはじめ、化学協会・電気技師協会・英国学術協会の会長を歴任しています。そしてその間、タリウム元素の発見、クルックス放電管の発明などで世界的な名声を博しました。文字どおり英国科学界だけでなく、世界科学界のトップの立場にいた人物でした。

そのクルックス博士が、本格的に心霊研究に乗り出す際に出した声明文が、次のようなものでした――「まだ何ひとつ理解していない問題について、見解だの意見だのといったものを持ち合わせてはいない……一切の先入観を持たずに研究に入りたい。この研究の結果、間違いないと確信した情報はいつでも提供しよう……」そしてこの声明文は、「科学によってスピリチュアリズムの愚にもつかない現象を追放しよう!」といった言葉で締めくくられています。

この声明文の終わりの一行から、研究に乗り出した当初のクルックス博士は、ちまたで騒がれている心霊現象には何かあると思いながらも“どうも疑わしい”といった疑念を強く持っていたことが分かります。ジャーナリストたちはこの声明を大歓迎し、これでスピリチュアリズムの“化けの皮”がはがされ、すべてにケリがつくと考えました。ところが、この期待は見事に裏切られることになります。ホームの研究、さらにこの後で紹介するケーティ・キング霊の研究により公表された実験報告は、百パーセント心霊現象を肯定するものだったからです。

ウィリアム・クルックス
ウィリアム・クルックス

クルックス博士は――「信じがたいことだが事実である」との霊魂の存在を認める声明を出しました。これが出版されると、英国中に大センセーションを巻き起こしたことは言うまでもありません。完全に裏切られた形となったジャーナリストの中には、博士は女性霊媒と恋に落ちて説をひるがえした、などというデタラメをでっちあげた者もいました。

クルックス博士は、ちまたで心霊現象と言われているものの中に多くの詐欺・不正・トリックがあることを知って、それらを率先して暴いてきました。歴史上の人物の名前をかたって出るまやかしの霊界通信を見抜き、人間の欲望に迎合した程度の悪い霊媒を徹底して非難してきた人物でした。まさに“インチキ霊能者”のペテンを暴露し摘発する名人だったのです。その彼が、最終的に霊魂の存在を認めるようになったという事実は、「霊魂説」が単なる作り話や迷信の類ではなく、信憑性の高い説であることを物語っています。

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