4節

〔以上の通信は一八七三年の四月から五月にかけて受け取った厖大な量の通信からの抜粋である。この頃には自動書記も楽にそして流暢に書けるようになり、適切な用語も前ほど苦労せずに見つかるようになっていった。

関係している霊の地上時代のことや正確な記録もいくつか明らかにされた。例えば五月二十二日にまったく別の問題について綴っていたところ突如その通信が途切れて、トーマス・オーガスチン・アーン(1)という名が書かれた。そしてスピーア博士(2)のご子息で素晴らしい才能の持ち主である私の生徒との縁で出られることになったと、その経緯を書いてきた。

その頃の私は自動書記通信に大いに関心を抱き、その内容にも注目していた。そこでさっそく当時の筆記者のドクターにアーンの身元を証明する地上時代の事実があれば提供してもらいたいと頼んでみた。すると間髪を入れず返答が書かれた。生年(一七一〇年)、学校名(イートン)、バイオリンの教師名(フェスティング)(3)。作品集――少なくともそのうちの八曲ないし九曲の曲名。さらに彼の作曲した英国の愛国歌「ブリタニアよ統治せよ」(4)が「アルフレッドの仮面劇」(5)の中に収められていること。その他、実に細かいことが数多く、しかもすらすらと書かれた。その全てが私の知らないことであるのみならず、私はその方面のことに関心がないので――私は音楽のことは全く無知で音楽に関する本は一冊も読んだことがなかった――私はそれほど細かいことが何故わかるのか尋ねてみた。すると、実際はそう簡単に書けるものではなく、霊媒がよくよく受容的な精神状態の時にのみ可能であると書かれた。同時に、霊界には知識の貯蔵所のようなところがあって、不明確なことはそこから情報を得ることが出来るとも述べた。

私はそれはどういう手段でやるのか尋ねた。すると、ある条件のもとで、知りたい目標を心に描いて“読み取る”のだという。人間がするように問い合わせる方法もあるが、それは読み取るのがあまり上手でない霊にかぎられるという。

ではあなたにもそれが出来るかと尋ねると、自分には出来ないと答え、そのわけは地上を去ってからの期間が長すぎるからだという。そう述べてから、地上の情報を蒐集することを得意とする二人の霊の名前を挙げた。そこで私はどちらか一方を呼んでほしいとお願いした。

その時のこの筆記をしている部屋は私自身の部屋ではないが、書斎として使用しており、まわりの壁はすべて書棚になっている。

そこでいったん筆記が中断した。そして数分後にこんどは全く筆跡の違う文章が出はじめた。そこでさっそく尋ねた。〕

――あなたは読み取りが出来ますか。

いや、私には出来ない。が、ザカリー・グレイ(6)が出来るし、レクターにも出来る。私には物的操作が出来ない――つまり物的要素を意念で操作することが出来ないのです。

――どちらか来られてますか。

一人ずつ呼んでみましょう。まず……あ、レクターが来ました。

――あなたは読み取りがお出来になると聞いています。その通りですね? 書物から読み取れますか。

〔筆跡が変わる。〕

出来ます、なんとか。

――「アエネイス」(7)の第一巻の最後の文を書いてみて下さいますか。

お待ち下さい――Omnibus errantem terris et fluctibus aestas.

〔この通りであった。〕

――その通りです。でもそれが私の記憶にあったということも考えられますので、書棚の二番目の棚の最後から二番目の本の九四ページの最後の一節を読み取ってみて下さい。私はその本を読んだことがありませんし、書名も知りませんので。

I will curtly prove, by a short historical narrative, that popery is a novelty, and has gradually arisen or grown up since the primitive and pure time of Christianity, not only since the apostolic age, but even since the lamentable union of Kirk and the state by Constantine.(8)

〔調べてみたところ面白いことにその本はロジャース著『僭称的教皇長老主義者――キリスト教をカトリック的因習と政治性と長老支配から解放、浄化するための一試論』(9)とあった。引用された文章は正確だった。ただnarrativeaccount(10)となっていた。〕

――意味深長な本を選んだのには何かわけがあるのでしょうか。

それは知りません。偶然でしょう。一語間違いました。書いた時すぐに気づいたのですが、敢えて改めませんでした。

――どうやって読み取るのですか。今の文はさっきよりゆっくりと、しかも時おり思い出したように書いておられましたが。

憶えていた個所もあり、判らない個所は見に行ったりしたからです。読み取るというのは特殊な操作であって、こうしたテストの時以外は必要でありません。昨夜ドクターが言っていた通り、われわれも幾つかの条件が整った時しか出来ません。もう一度試してみましょう。まず読んでから書き、それからあなたに印象づけてみます。

Pope is the last great writer of that school of poetry, the poetry of the intellect, or rather of the intellect mingled with the fancy.(11)

これは正確です。さっきと同じ書棚の十一番目の本を取って来て下さい。〔それは『詩とロマンスとレトリック』(12)という本だった。〕開いてみて下さい。ちょうどその文章の書かれているページが開くはずです。われわれのこうした霊力をよく確かめ、物質的なものを超えた力を人間に啓示することを許された神の意図をよく認識していただきたい。神に栄光あれ。アーメン。

〔その本を開いたら一四五ページが出た。そこに書かれた通りの引用文が出ていた。私はその本を一度も見たことがないし、まして内容については何も知らなかった。〕

〔注〕

  • (1)

    Thomas Augustine Arne.

  • (2)

    Dr.Speer 巻末「解説」参照。

  • (3)

    Festing.

  • (4)

    Rule,Britannia.

  • (5)

    The Masque of Alfred.

  • (6)

    Zachary Gray.

  • (7)

    Aeneid ローマの詩人バージルのラテン語の叙事詩で全十二巻ある。

  • (8)

    大意――私はこれより、カトリック的制度などというものが本来のキリスト教にはなかったものであり、純粋な原始キリスト教時代――伝道者時代はもとより、コンスタンチヌスによる教会と都市国家との嘆かわしき結合以来、徐々に台頭もしくは発生して来たものであることを簡略に論証してみようと思う。

  • (9)

    Antipopopriestian-an attempt to liberate and purify Christianity from Popery, Politikirkality, and Priestrule,by Rogers.

  • (10)

    双方ともほゞ同じ意味を有する。

  • (11)

    大意――ポープはその流派、知性の詩、というよりは詩的想像力と渾然一体となった詩の流派の最後の偉大な詩人であった。

  • (12)

    Poetry, Romance, and Rhetoric.

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